浄土真宗本願寺派 興徳山乗善寺

ちょっといい話

法話

現世利益

No.668

北海道も初夏を感じられる季節になってきました。

コロナの制限が緩和されて一ヶ月程になり、過ごしやすい日々が増えたように感じます。

お寺では法要等の行事の平常化に向けて努力はしていますが、3年間の慣れを元に戻すことはなかなか難しいことでもあります。ご門徒の皆さまにもそんな時だからこそ仏法に耳を傾けることを大切にして頂きたいと思います。

法要といえばお寺の行事はもちろんのこと、年回のご法事や月々のお詣りも、年に一度の祥月のお詣りも、お盆や彼岸の読経も、すべて法要でありますが、皆さんはどのように捉えられているでしょうか。

よく「追善供養」という言葉を耳にします。生前に徳の足りない者に善を振り向けてそれを足しにして故人を少しでも良いところに行ってもらいたいという思いから供養するという方法であります。

しかし、私たち浄土真宗での法要はこの「追善供養」の意味でお詣りをし、手を合わせることではありません。

浄土真宗では「仏徳讃嘆」という仏の徳を讃える気持ちでお詣りをし、手を合わせます。

阿弥陀如来の願いである「生きとし生けるもの全てをそのまま必ず救う」という願いを成就された本願力という如来のお救いを讃えるのです。この救いとは臨終の際、即座に極楽浄土に往生させていただける救いであります。

私たちは自身の煩悩による苦しみの中で人生を過ごしています。その中でも特に不安を感じることのひとつに「死」の問題があると思います。その不安を取り除いてくださるのが行き(往き)場所を決めてくれる本願力のお働きであります。私たちは〈知らない〉ということを不安に感じ、恐怖すら覚えることでしょう。

本願力によって〈知らされる〉ということは日々の生活にもその後のことにも安心を与えてくださいます。その中にこそ豊かな人生を過ごせる要因があるのだと気付かされます。

『本願力にあひぬればむなしくすぐるひとぞなき 功徳の宝海みちみちて 煩悩の濁水へだてなし』と親鸞聖人は和讃(七五調に詠んだお釈迦さまの教え)に残されています。

「本願力に出遇うと空しい人生ではなくなりますよ 阿弥陀如来の働きがどんなに煩悩を持っていてもへだてなく毎日を充実させてくださいますよ」ということであります。

『現世利益』という言葉があります。この世の現時点でのご利益を得るという意味でよく祈祷とかお祓いなどで良い状況にしてもらうことを仏に願うことを想像される方も多いでしょう。

浄土真宗での『現世利益』は先にも述べたように、往生させていただけるという今ある状態のことであります。

必ず往生させていただけると決定したと約束されている立場を『正定聚』と言います。月々のお詣り等で拝読させていただいている「御文章」ー聖人一流の章には、「聖人一流のみ教えは不可思議の願力として仏の方より往生は治定(決定)せしめたもう その位を一念発起入正定之聚とも釋し・・中略・・ あなかしこ あなかしこ」と書かれています。

現世を生きていると自らの煩悩によって苦しみが消えることはありません。しかし、阿弥陀如来の本願力のお働きをいただけたなら安心の中で自らを見つめ直し、他に感謝出来る余裕のある気持ちで生きていけるでしょう。

『現世利益』、本願力をいただきながらお念仏の充実した日々を過ごしてまいりましょう。


令和五年 六月