浄土真宗本願寺派 興徳山乗善寺

ちょっといい話

法話

お香

No.674

私たちの日常生活は、様々な香りに包まれています。

香りの歴史は大変古く、5000年も前のエジプトでも用いられていたことが、ピラミッドの壁画に記録されています。その後、香りの文化は西方へ、アラビアからヨーロッパへと伝わり、香水として発達し、東方へはインドに於いて仏教と結びつき、中国から日本に伝わり、お香として今に伝わっています。日本へは仏教の伝来とほぼ同じ頃(五三八年頃)に伝わったと推測されています。

『日本書紀』には推古天皇の時代(五九五年)に淡路島に沈香が流れ着き、朝廷に献上された記録が残っています。仏教が広く伝わっていくと共に、お香も様々な発展を遂げます。

平安時代には貴族文化に取り入れられ、さらに室町時代には茶道・華道とともに香道が三道と称されるようになりました。今では化粧品やアロマセラピーなどにも利用されるなど、私たちの身近なところで用いられています。

お香の原料は動物系と植物系に大別され、動物系には麝香、竜涎香、植物系には白檀、丁字などがあります。仏典に多く述べられているベトナム原産の沈香は、常緑樹の樹脂が固まってできたもので、水に入れると沈んでしまうことから沈香と名付けられました。この沈香の高級なものは伽羅と呼ばれ、正倉院には「蘭奢待」という銘香が収蔵されています。

栴檀も『大経』などに記述が見られ、お釈迦様がお亡くなりになったときには栴檀の棺に納められたと伝えられています。形状や用途でも様々に発展し、直接火をつけるものには一般的なお線香、次第に香りが強くなる円錐型、燃焼時間が長い渦巻型があり、間接的に熱を加えるものには練香があります。また、そのまま香る物には匂い袋などがあります。

形状的には細かく刻んだものは焼香に、さらに細かくしたものは塗香として用いられます。お線香の作成技術が江戸時代に中国から伝えられ、国内でも製造されるようになりますと、求めやすく、扱いやすくなったことなどから広く用いられるようになりました。

場を清めるための焼香は仏教当初から取り入れられ、仏典にもお釈迦様の説法を聞くときの作法として焼香することが説かれています。これは今日、私たちが仏事を行うときにも大変重要なことで、年忌法要などの特別な時ばかりではなく、月忌参りなど日常の仏事の折にも、お花やローソク、お供物などと同じように、必ずお線香やお焼香もご用意いただきますようお願いいたします。

浄土真宗では、お線香は陶磁器製の土香炉に寝かせます。焼香は金属製の金香炉に火種を入れて用います。作法も宗派によって異なりますが、要点は「お香をいただくかどうか」「お香をくべる回数」の違いです。本願寺派では「お香はおしいただかず」「回数は一回」です。

  ①尊前で頭を下げる
  ②お香を一回つまみ、そのままくべる
  ③合掌、礼拝、お念仏
  ④頭を下げて退く

が基本の作法となります。親鸞聖人はご和讃に、
「染香人のその身には 香気あるがごとくなり これをすなはちなづけてぞ 香光荘厳とまうすなる」
と述べられ、罪悪深重の私達が念仏を喜ぶ身となれるのは、偏に阿弥陀様の摂取不捨の働きに包まれているおかげであることを、お香の香りに包まれることに例えてお示しくださっていることからも、お香の香りが大変重要であることが窺われます。

令和五年十二月