浄土真宗本願寺派 興徳山乗善寺

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法話

理想と現実

No.607

新年度を迎えて二ヶ月近くなります。新社会人や新入学、転勤、退職など新たな生活を迎えた方も少なくないでしょう。緊張して迎えた新しい環境にも慣れてきて、少し余裕も持てるようになってきた頃でしょうか。新しい環境には様々な要素があると思います。仕事の手順であったり、勉強の仕方であったり。
初めて経験することが一度にやってきます。余裕を持てるようになる一方で壁にぶつかり悩みが出てくるのもこのころだといわれています。五月病といわれる現象が以前からこの時期になるとよく取り上げられます。自らが今まで経験してきたことが通用しなかったり、思い描いていた新生活と現実の生活のギャップが大きかったり。なんとなくやる気がなくなってしまったり、倦怠感にとりつかれたり、重症になると出社拒否や不登校、もっとひどくなると引きこもりというような事態にもなってしまうこともあるようです。

先日、教育問題などを話し合う場で話を聞く機会がありましたが、その中で興味深いお話がありました。

たとえば小学校の新入一年生に小学校に上がるにあたって周りの人はどのような言葉をかけてあげるでしょうか? 「勉強頑張ってネ」「先生の言うことちゃんと聞くように」「学校の行き帰り事故に気をつけて」などなどいろんな言葉をかけてあげると思います。その他にもかけてあげる言葉はたくさんあると思いますが、必ず言われるのは「友達みんなと仲よくしてネ」ではないでしょうか。全くその通りで、団体生活を送るうえではたいへん重要なことです。新生活がうまくいかない原因の多くを占めるのは人間関係であるといわれています。私たちは様々な人々と関係を持ちながら生活を送っています。

出会った人と関わりを持ちながら暮らしています。しかし今ここでちょっと自分の周りの事を考えてみると、他人には「みんなと仲よく」と言いながら自分自身、本当に出会った人たち「みんな」と仲よくできているでしょうか。たくさんの人が集まるとその中で気の合う人、苦手な人などが出てくるものです。「みんなと仲よく」という理想と、「気の合う人、苦手な人などが出てくる」という現実のギャップに悩むことになるのでしょう。私たちの好き嫌いにははっきりした理由があることもありますが、特に嫌いという感情にはこれといった理由が思い当たらないけれども、なんとなく好きになれないということも少なくありません。人との出会いも同じことが言えるでしょう。

『人間関係で悩まなくなる宇宙の法則』という話を聞いたことがあります。様々な場合の知り合いは「♡♡△△△△△△××」という割合に分けることができ、「♡」は今の関係とは関わりなく一生付き合える人。「△」は良い関係だけど今だけの関係の人。「×」は付き合うとストレスになる人。自分の生活を大切にするためには「みんなと仲よく」するのではなく、「×」の人とはなるべく付き合わないこと、どうしても付き合わなくてはならない時も深くかかわらないことが大切と説いています。先の教育問題の会の関係者のはなしでも、子どもの自死の原因の大半はいじめを含む人間関係で、「みんなと仲よく」という指導も考え直す時代になっているとのことでした。

親鸞聖人は迷いの中にある世の中において、共に念仏を喜ぶ仲間を「御同朋」「御同行」と呼ばれ、その生涯を通して私たちにその大切さをお示しくださいました。しかし実際の自分は本当に聖人の教えのとおり、周りの人たちと共に歩んでいくことができているでしょうか。「みんなと仲良く」という理想を実現しようとしながらも、できていない自分を正しく見つめているでしょうか。一見正論と思われてきたことも、当たり前と思われてきたことも、自分自身のことも、今一度改めて考え直す必要がある時代になってきています。常に自分自身を問い直す努力が求められているのです。自分の人生や生活そしてもっとも大切ないのちを大切に扱うために、何が重要で優先させるべきなのか。一人ひとりが真剣に考えることが他人をもいつくしみ自他共に生活しやすい社会を目指すことになるのではないでしょうか。